目次
過去の実験詩集

浅見秀雄

これらは、日本語脚韻の研究の初めのころの作例です。新しい実験詩集はこちらです。
ラップ律二重韻
拡充二重韻
束縛なし二重韻
ラップ律二重韻 二重韻(一母音+一音合わせ)は、句末の字脚(じあし)を偶数にした方が響きやすくなると考えられます。一拍子(四分音符一個相当)に二音ずつを乗せるリズムで脚韻の二音が一拍子のまとまりにぴったり収まることによるものです。これは私が日本語ラップ音楽をヒントに提唱した説で、句末の字脚を偶数に揃えた律の総称を「ラップ律」と名付けています。(関連:漢詩七六調訳

【ラップ】
風邪ひき

季節変われば毎回ひく風邪
鼻はグスグスもうこりごりだぜ
しかも最近慢性寝不足
頭クラクラ体はゾクゾク

多分原因働きすぎ
飯を食うことさえ二の次
そんな生活 それでなおかつ
急な冷え込み 風邪ひくのみ

季節変われば毎回ひく風邪
酒を温め卵をよく混ぜ
だけど心配 明日の決裁
かまうもんかい 寝るしかない



【三・四律】
できもの
(友人の悩みを聞いて詠める)

鏡見る時
あっと驚き
顔にぶつぶつ
痒さ憂うつ
肌をぽりぽり
頬はげっそり
こんなトラブル
いやだぶるぶる



【三・四律】
梅雨に郷を憶う 頼山陽

街のぬかるみ 乾きさわやか
馬車が荷を積み 走るパカパカ
里の我が土地 思い出す音
梅の実が落ち 庭にぽとぽと

[満巷の深泥 雨乍たちまち晴れ
 輪蹄 絡繹として門を過ぎて行く
 故園 昔日 西窓の底
 臥して数う 黄梅の地に墜つるの声]



【四・四・四律】
やめちゃいな

もういい、やめなよ、強がり
今まで辛抱ばっかり
叫べばいいだろ、「もうダメ!」
自分を殺していたから
マンネリしちゃってだらだら
そこから脱出するため

あいつにこだわる言い訳
捨てなきゃ不幸になるだけ

もういい、やめなよ、その恋
あんたの人生尊い
今でもまだ間に合うから
疲れた心を休ませ
探しな、自分の幸せ
まっすぐ前だけ見ながら

(題材:潘協慶「半途而廃」
 翻訳提供:月恵さん)



【五・四律】
夏の日

街角で偶然 再会の驚き
会えなくて三年 若かったあの時
 面影は変わらず ほほえみはそのまま
 できごとの数々 追憶はさまざま
照りつける陽のもと なつかしくふたりで
過ぎ去った日のこと 語り合う想い出

よみがえるはるかな キャンパスの語らい
優しさはなぜかな こみ上げる後悔
 今ならばわかるわ 温かなその愛
 隠してた秘密は つまらなく小さい
涙出てくるから なにげないそぶりで
沈む陽を見ながら 語り合う想い出

すれ違い失恋 突然の再会
過ぎ去った三年 胸の奥言えない
 別々に来た道 壊したくないから
 胸秘めた一日 さりげなくさよなら
去る姿小さく 包み込む街の灯
さよならとつぶやく 終わりゆく夏の日



【四・四・六律】
善良生徒と不良生徒の掛け合いラップ

仰げば尊し 我が師の恩
 先公うざいぜ 殴らにゃ損
教えの庭にも 早幾年いくとせ
 ガードのポリ公 そら乗り越せ
思えばいととし この年月としつき
 やっとこ解放 気はうきうき
今こそわかれめ いざさらば
 卒業式場 もう修羅場


ラップ律二重韻
拡充二重韻
束縛なし二重韻
拡充二重韻 拡充二重韻(二音合わせ)またはそれ以上の一致ならば、句末の字脚(じあし)が偶数か奇数かにかかわらず韻がわかりやすいと考えられます。しかし、意味の通る長い詩を拡充二重韻以上で揃えるのはかなり困難です。(関連:韻踏み都々逸

【四・四・六律拡充二重韻】
電信柱

電信柱という呼び方、
言ってるのはややお年の方。
電線架けるに、なぜ電信?
お教えしましょう、温故知新。

起こりは明治の開国ころ、
東京・横浜結ぶ所、
腕木をくっつけ立てた柱、
電線架けたの。わかるかしら?

電気を通してトトツーツー、
モールス電信、さあ開通!
電信柱と呼んだ由来、
おわかりですかな?ではオーライ!

そのあとできたは送電線、
おんなじ柱を使うとせん。
それゆえ電柱、幾年の世、
電信柱と呼んでたのよ。



【三・四・五律三重韻】
女優

いつかやりたいミュージカル
行く手希望の星光る
狭い日本じゃこの力
活かす見通し暗いから
車手放し金に換え
貯金はたいてアメリカへ
だけど不安は英会話
私ちっともできないわ


【七音律拡充二重韻】
意味な詩

僕のこの愛
君との出会い
嫌いよなんて
言わさぬ先手
へいへいベイビー
おいらはネイビー
突然発作
やれこのさっさ



【七五調拡充二重韻】
鉄道唱歌(替え歌)
[元歌]詞:大和田建樹
曲:多梅稚
(一) 新橋発つは陸おか蒸気
最新鋭の動機関
ひらく未来の夢多き
日本の国を引きゆかん
汽笛一声新橋を
はや我が汽車は離れたり
愛宕の山に入り残る
月を旅路の友として

(二) 右は高輪たかなわ泉岳寺
四十七士の墓どころ
誇り貫きたる意気地
語り継がるるその心
右は高輪泉岳寺
四十七士の墓どころ
雪は消えても消え残る
名は千載の後までも

(三) 品川駅にて一休み
台場に寄する白き波
かなたに見ゆる薄霞
あれは上総かずさの山の並み
窓より近く品川の
台場も見えて波白く
海のあなたにうすがすむ
山は上総か房州か

(四) 渡る六郷県境けんざかい
釣り人たちの集う河岸かし
その名知られし写仏会
川崎大師はほど近し
梅に名をえし大森を
すぐれば早も川崎の
大師河原は程ちかし
急げや電気の道すぐに

(五) 煙を上ぐる貨客船
異国へ向かう時を待ち
別離の感傷いかにせん
ここは横浜港町みなとまち
鶴見神奈川あとにして
ゆけば横浜ステーション
湊を見れば百舟の
煙は空をこがすまで



緩急律三重韻十四行詩作例 (2003年作成の論稿)

 原田昌雄さんから、私のラップ律論に対して「私の“緩急律”から言えば、ラップ律が単調に過ぎるのは明白である」とのご批判をいただいた。そこで、私も自らの成長のために原田さんから学ぶべく、緩急律による詩作を実践してみた。
 まず、原田さんがインターネットに公開しておられる十四行詩の一つを引用させていただく。

 [かの 鳥の かの 宇宙を 返せ
  山火事に ほゝ 染まる 日沒
  たましひを 野に こめる 煙突
  降りふる 灰の 悲しみの 消せ
  るなら
      瞳よ さゝ きこし召せ
  けたましく 齒の ゑらぐ 白骨
  座に なまめきの 影さへ 保つ
  ほゝける 國の 神ごとの えせ

  思想の あぶく 吹く 若い 蟹
  あふ向いて ふと 死相の 空似
  星と この 世と 失なへる 婿

  毛を むしり 皮 剥ぎとり マリア
  心 くり拔く やつ きツと 射あ
  てる 指の 矢の 光の いづこ]

 確かに、字脚を固定するラップ律に比べて、字脚がダイナミックに変動する緩急律には、独特のおもしろさを感じる。
 緩急律では、字脚をでたらめに変動させているわけではなく、規則性があるらしい。しかし、変動のさせ方が作品ごとに違うので、私はその規則性を習得できるには至っていない。そこで、とりあえず、引用したこの作品に字脚を一致させて作ってみた。韻の配置も、正統ソネットの「ABBAABBA」でなく「ABBACDDC」という形にしていること以外は同じである。ただし、語の途中で切って押韻するというユニークな方法は、私には真似しがたいので、取り入れていない。

 ああ 無常なる 我が世の 定め
 叫べども 我 感ず 限界
 いと若き 子ら 望み 全壊
 努力は 空(むな)し 世直しは 駄目

 神よ 仏よ いざ 事問わん
 都鳥 鳴く 誉れ 古里
 毒 混じりたる 心の 憂さと
 穢(けが)れを 洗え 諫早の 湾

 空(くう)なる 宇宙 生む 量子から
 重力の 性(さが) 妙(たえ)なる 力
 やがて 無に 帰し 素粒子も 絶え

 罪深き 者 汝は 悪魔
 阿弥陀如来の 説く 道は 隈(くま)
 我 なおも 待つ 仏の 答え

 原田さんの作品との違いは、すべて三重韻(またはそれ以上)になっていることである。
 原田さんの作品は、押韻が七音句一つおきであること、韻の場所が離れる抱擁韻が使われていること、なおかつ字脚がダイナミックに変動することから、世間一般の人は韻に気付きにくいと思う(私だけがそう思っているわけではなく、韻律の専門家でない一般の人で、そう証言した人もいる)。しかし、三重韻は、素人の耳に韻を響かせるのに不利な種々の条件をものともせずに確固として響くように感じる(三重韻にまでしなくても、拡充二重韻でもよいと思う)。
 私は、「二重韻は偶数字脚で踏んだ方がよい」というラップ律仮説を提唱しているが、それ以外の律を否定しているわけではない。「韻の組のうちどちらかでも奇数字脚になるならば、拡充二重韻以上にするのがよい」という仮説も持っている。緩急律による詩作を通じて、私はそれをますます確信した。
 長い詩で拡充二重韻や三重韻を貫くことは、経験的には困難である。まして、二音・三音単位で指定された字脚にぴったり合わせるという条件も課されては至難の業である。しかし、「一般人に意味がわかること」という条件さえ課さなければ造作もないことである。
 「緩急律には拡充二重韻や三重韻が似合う」と提案して、原田さんの緩急律の普及のためにエールを贈りたい。


ラップ律二重韻
拡充二重韻
束縛なし二重韻
束縛なし二重韻 従来の日本語韻律論では、日本語脚韻は二重韻(一母音+一音合わせ)であればよいとされていました。ここに挙げるのは、ラップ律を考案する前に作った作例であり、句末の字脚(じあし)を偶数にするという束縛を課していません。私は、句末の字脚が奇数であると二重韻でも末尾一音の一致しか聴き取りにくく、響きが十分でないと考えています。

野菊のごとき君なりき

我が想い出の里の山
叫べば君の名のこだま
ともに見つめし山の四季
幼なじみの君なりき

君と歩きし桑畑
戯れ比べし背せいの丈
無邪気なる我が想い聞き
恥じらう幼き君なりき

嫁ぎて遠き日はかすみ
君の伏せしを伝う文ふみ
悲しきさだめあるまじき
ひとり召されし君なりき

君の眠れる丘に咲く
花の嘆きはなお深く
野菊を愛でし君なりき
野菊のごとき君なりき

(題材:伊藤左千夫「野菊の墓」)



こねこ

かわいいこねこ
ほらほらみてて
こするよおでこ
なめるよおてて

ころがるボール
おえばさいなん
ろうかをとおる
パパにどっかん

おやおやいかん
だいじょうぶかな
おわびにごはん
きょうはおさかな

はやくたべたい
おなかぺこぺこ
まってちょうだい
かわいいこねこ



愛の喜び 
Plaisir d'amour
詞:ジャンピエール・クラリ・ド・フロリアン
曲:マルティーニ

愛した喜びは消え
恋の悲しみはとこしえ

捧げた愛は君にだけ
君は彼にくびったけ

愛した喜びは消え
恋の悲しみはとこしえ

「あなたはいとしい人
愛はとわに変わらない」と
あの時 君は言ったばかり
悲しい その心変わり

愛した喜びは消え
恋の悲しみはとこしえ

[愛の喜びはひとときしか続かない。
 愛の悲しみは一生続く。
 恩知らずのシルビーとはすっかり別れた。
 彼女は僕を捨ててほかの男をとった。
 愛の喜びはひとときしか続かない。
 愛の悲しみは一生続く。
 「草原のせせらぎへ
 静かに流れるこの水のように
 あなたを愛し続けるわ」とシルビーは何度も言った。
 水は今も流れるのに、彼女は変わってしまった。
 愛の喜びはひとときしか続かない。
 愛の悲しみは一生続く。]

(訳詞の音数はほぼ曲に合わせています。)



きらきら星
Twinkle, Twinkle, Little Star
詞:ジェーン・テーラー
曲:フランス民謡

夜空にきらり
輝く光
小さな赤い
宝石みたい
星屑きらり
夜空の光

日暮れの時間
見上げてごらん
空色変わり
落ちゆくとばり
星屑きらり
夜空の光

夜道にいつか
ゆくてにはるか
星座は招く
またたき繁く
星屑きらり
夜空の光

[またたけまたたけ小さな星よ
 あなたを見てるととっても不思議
 世界の真上にはるかに高く
 お空にきらめくダイヤのように
 またたけまたたけ小さな星よ
 あなたを見てるととっても不思議

 輝くお日さま沈んだ時に
 まばゆい光が消え去る時に
 あなたは小さな光を見せる
 きらきらきらきら夜じゅうずっと
 またたけまたたけ小さな星よ
 あなたを見てるととっても不思議

 闇夜にひとりで旅する人が
 あなたの小さな光に感謝
 あなたがそうして光らなければ
 行く先わからず夜道に迷う
 またたけまたたけ小さな星よ
 あなたを見てるととっても不思議]


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