No.77 2000/12/17
コードレス

 NTTが電電公社だったころまでは、電話機を利用者が勝手につないだりはずしたりすることはできませんでした。電電公社に頼んで電話機を設置してもらう必要がありました。電話を使う時には、電話機が鎮座している場所まで人が行かなければなりませんでした。
 その後、モジュラージャック方式が規格化され、利用者が自分で電話機をモジュラージャックにつないだりはずしたりできるようになりました。これにより、モジュラージャックを家の中のあちこちに備えておいて、リビングでも台所でも好きな場所へ電話機を持ち運ぶという使い方ができるようになりました。
 さらに、コードレス電話機も普及しました。昔は、電電公社の認可を受けずに勝手に製造された無線式電話機を使うと、近くにいる他人に電話回線を使われてしまう危険がありました。しかし、同じ周波数帯の電波を使いながらも特定の親機と子機のペアでしか通信できないコードレス電話方式が規格化されたので、そのような問題がなくなりました。コードレス電話機の子機を持ち運んで、家の中や庭などのどこででも電話を使えるようになりました。モジュラージャックをあちこちに設けておく必要はなくなりました。
 屋外に出歩いていても自分専用の電話を使いたいという欲望は、携帯電話やPHSによって満たされました。どこでも使える電話機を持てば、もはや固定電話は必須ではなくなりました。単身赴任者や下宿する学生が固定電話を引かずに携帯電話やPHSですませてしまうケースが増えてきました。
 携帯電話やPHSの持ち運びのしやすさは、コードレス電話機の子機をはるかに上回っています。たとえば家の外で車を洗う時、電話がかかってくるかもしれないと思ったら、意識的に子機を持ち出して、水がかからなくてかつ着信音が聞こえる所を選んで置いておく必要があります。私は、NTTドコモのPHSをいつもケースに入れてベルトにぶら下げていて、家の電話回線にはホームステーションをつないでいますから、家にかかってきた電話をPHSで受けることができます。さらに、PHSにはイヤホンマイクを接続することができますから、車を洗う手を休めずに電話することもできます。この便利さゆえに、今では家のコードレス電話機の子機さえあまり使わなくなりました。

 さて、人は、パソコンも自由に持ち運びたいという欲望を持つようになりました。持ち運ぶには、やはりコードはじゃまです。パソコンのコードレス化は今どこまで進んでいて、これからどう進むのかを考察してみましょう。

●キーボード、ディスプレイ
 これらは、本体と一体化したノートパソコンとしてすでに実現されています。

●外部記憶ドライブ
 最近では、持ち運びが容易な軽いノートパソコンでもCD-ROMドライブ内蔵のものが増えてきました。やはり、外付けのドライブをいちいちPCカード(PCMCIA)インタフェースにつながなくてもよいのは便利です。
 一方、FDドライブを内蔵しないノートパソコンが増えてきましたが、FDを使う機会は少なくなりましたから、これはあまり不便ではないと思います(第57回参照)。

●マウス
 ノートパソコンにはフラットパッドなどのポインティングデバイスが付いていて、マウスなしでも操作できますから、すでにコードレス化されているとは言えます。しかし、ポインティングデバイスの使いやすさにおいてマウスに勝るものはないと私は思っています。マウスのコードも不要になってほしいものです。
 コードレスマウスはすでにあります。しかし、赤外線式のものは、マウスと受信機との間に遮蔽物があってはならないので、使い勝手はあまり良くありません。電波式の方が便利です。私はパナソニックの電波式のコードレスマウスを買ったことがあります。しかし、いずれにしても受信機をコードでパソコンに接続しなければならないので、コードレス化としては中途半端です。電波式のコードレスマウスが付属して受信機が内蔵されたノートパソコンが出てくれないかなあと思っています。

●インターネット接続
 携帯電話やPHSを使って外出先でインターネット接続をするのはもはや当たり前の時代になりました。携帯電話やPHSをノートパソコンにケーブルで接続するのはやはりめんどうですが、NTTドコモのP-inを使えば、ぶらぶらするケーブルは不要です。これは便利です。
 また、家庭の電話回線によるインターネット接続をコードレス化したノートパソコンがパナソニックにあります。

●LAN
 最近、11Mbpsの安い無線LANがたくさん製品化されるようになりました。私は自宅に設置しています。リビングでパソコンを使う時にLANケーブルを引き回す必要がないので、非常に便利です。職場でも導入しました。自席で使っているノートパソコンを、LANケーブルをつなぎ替えることなく、そのまま会議室に持ち込むことができます。

●電源
 電源ケーブルもなくなってほしいところです。私が職場でノートパソコンを自席から会議室へ持ち運ぶ時、LANケーブルのつなぎ替えは不要になったものの、電源アダプターもいっしょに持ち運んで電源コンセントにつなぐのはやはりめんどうです。ノートパソコンには電池が入っていますから、電源のコードレス化はなかばできていると言えば言えるのですが、いかんせん電池が長持ちしません。
 天井からマイクロ波を降らせて電力を供給するというアイデアを考えたこともあるのですが、それだと人間が加熱されそうです。それに、この方式では、どこでもというわけにはいかないでしょうし。
 乾電池で動くパームトップコンピュータを持ち運べばいいじゃないかと言われそうですが、私の望みはあくまでもパソコンを持ち運ぶことです。どこにいても同じ操作で文書作成、電子メールの送受信、インターネットサイトのメンテナンスなどをやりたいのです。
 パソコンの電源のコードレス化を実現するには、消費電力を今よりもさらに小さくしなければならないでしょう。画期的な半導体デバイスができれば、携帯電話やPHSのように、充電器に一晩載せておけば日中はずっと使えるようになるかもしれません。欲を言えば、電卓のように、室内の光さえあればいつまでも動き続けるパソコンが理想です。
 夢物語のようですが、21世紀には実現するでしょう。いつごろでしょうね。私は、10年以内にはパソコンの電源もコードレス化できるのではないかと予想しているのですが。

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