No.133 2002/08/16
ナローバンド化計画

 OCNエコノミーを使ってGabacho-Netを開設したのは1999年5月でした。料金は当時月額38,000円で、1999年10月以降は32,000円。
 今では、もっと安い料金で常時接続ができるようになっています。そこで、サイトの運用コストの削減のためにフレッツISDNを利用しようと思い立ちました。サーバの運用のために、今までと同じく8個ブロックの固定IPアドレスを割り当ててくれるサービスとしてOCN ISDNアクセスIP8フレッツプランを利用すれば、OCN料金とフレッツ料金とで合計月額9,600円ですみます。
 アクセス回線速度は128kbpsから64kbpsにダウンします。ブロードバンド(広帯域)が流行語になっている昨今に、それに逆行するナローバンド(狭帯域)化です。

 今は、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称ディジタル加入者線)で下り1.5Mbps・上り512kbpsまたは下り8Mbps・上り1Mbpsという高速通信を安く利用できるようになっています。下り1.5MbpsのフレッツADSLと、8個ブロックの固定IPアドレスを割り当ててもらうOCN ADSLアクセスIP8フレッツプランを使えば、月額14,700円。フレッツISDNを使うよりも5,100円高いだけで、下り24倍、上り8倍のブロードバンドを享受できます。なぜそうしないのかと疑問を持つ方がおられるでしょう。
 私がADSLを選ばなかった最も大きな理由は、その不安定さによるリスクです。ADSLは、もともとそのような高速通信が可能なように設計されてはいなかった電話線で無理やり高速通信を行う方式です。電話線上の信号は、多くの情報を運ぶことができるけれども外乱には弱い変調正弦波です。電話局から遠ければ速度が出ないとか、電気的ノイズの影響を受けやすいなどの不安定要因があります。実際、ADSLを使っている知人からは「通信が突然切れることがある」「雷が近づいた時にてきめんに切れた」などの証言を聞いていますし、ウェブでもそのような情報を見たことがあります。
 自分が外へアクセスするだけなら、通信が切れても自分が困るだけですみます。しかし、サーバ運用サイトの場合、よそのサーバが私のサーバへメールを送り込むのを失敗させたり、皆さんが私のウェブを見ることができなくなるなど、他人に迷惑をかけることになります。ADSLを使い慣れた人なら、それをサーバ運用サイトにも導入して、通信が切れないようにうまく運用できるかもしれません。しかし、ADSLを使ったことがない私がいきなりそれをサーバ運用サイトに利用するのはリスキーです。

 フレッツISDNは、ISDNの2チャネルのうちの1チャネルを特番(1492)にダイヤルアップ接続して定額でインターネットにつなぎっぱなしにできるサービスです。ISDNは、既設の電話線で64kbps×2チャネル(電話2通話分)のディジタル通信を行う方式です。電話線上の信号は、OCNエコノミーと同様、外乱に強いパルス波なので、通信の安定性はADSLよりも高いと期待できます。
 今となっては低速の64kbpsも、メール通信には十分です。単純計算では、50バイト(漢字25字)×100行のメール本文の伝送には1秒かかりません(実際にはそうとは限りませんが)。また、皆さんが私のウェブをご覧になるにもさほど時間はかかりません。私のウェブページのほとんどは軽く作ってあるからです。たとえばホーム(トップ)ページは画像を含めて20kBくらいで、伝送時間は単純計算で3秒以下です。アクセス頻度は平均して2分に1回くらいなので、回線が混み合って通信が遅くなることはほとんどありません。

 とはいえ、フレッツISDNにも、OCNエコノミーにはない不安定要因があります。電話網をベースとした接続サービスなので、加入者側からのダイヤルアップによって接続を維持しなければならないという点です。たとえば家で停電が起こってルータの電源が切れても、OCNエコノミーならば、電気が復旧すればすぐに通信が復旧します。フレッツISDNだと、停電や、電話局の工事や事故などでISDNの接続が切れた後、自分の方から再接続しなければなりません。自分がインターネットアクセスをする時に再接続すればよいというわけにはいきません。外から私のサーバへいつなんどき来るかわからないアクセスを受け入れなければならないからです。OCNエコノミーの安定性による安心感にどっぷりとひたっていた私には、そのリスクを自力でコントロールできるかどうかが、コスト削減のための課題でした。

 そこで私は、2002年7月から8月までの2ヶ月がかりの移行計画を立てました。OCNエコノミーによる運用を続けながら、並行してフレッツISDNの運用技術を確立し、サーバを切り替えてからOCNエコノミーを解約するという計画です。フレッツISDNを使ってみて、私には使えないと判断したら後戻りできるように考えました。
 新しいルータYAMAHA RTA55iを買い、フレッツISDNの開通後、いろいろと実験しました。ケーブルを抜くなどして接続を切断した後、ルータが切断を検出して自動的にダイヤルアップしてはくれないということは、製品を実際に使ってみて確認しました。そこで、サーバからOCNの直近のルータへ定期的にping(エコー試験)パケットを飛ばす仕掛けを入れました(今のところ2分間隔に設定しています)。こうすれば、サーバがpingパケットを飛ばそうとした時に接続が切れていれば、ルータが自動的にダイヤルアップしてくれます。(あとで聞いたところによれば、ダイヤルアップ接続でサーバを運用している人たちは、やはりこの方法を常套手段としてとっているそうです。)
 こうして、接続を維持するノウハウを確立し、8月11日にサーバをフレッツISDN側に切り替えました。現時点では、予定どおり8月いっぱいでOCNエコノミーを解約できるのはほぼ確実と判断しています。

 さて、64kbpsという低速でも私のサーバ運用には十分と書きましたが、私が外の重いウェブページにアクセスしたり大きなファイルをダウンロードしたりするには、今までの2倍の時間がかかって、やはり不便です。今のところは、それはOCNエコノミーの1/3以下という安さの代償として我慢できるという考え方をとっていますが、ブロードバンドがほしくなった時には、別の接続サービスを買い足せばよいと思っています。
 サーバをつながないならば固定IPアドレスは必要なく、たとえばOCN ADSLサービス(ACCA)の1.5Mbpsが月額3,353円(NTT地域会社の回線使用料を含む)。ISDN電話回線を使っている私の場合は、ADSL用の回線を別に引く必要があるので5,113円かかりますが、フレッツISDNと二本立てで利用しても合計14,713円。OCN ADSLアクセスIP8フレッツプランを使う場合の14,700円とほぼ同額です。また、これからは11Mbpsの無線アクセスサービスも選択肢に入ってくるでしょう。自分がインターネットにアクセスするだけのための接続サービスは、サーバ運用のための接続とは違って、臨機応変に、その時の気分しだいで選んだってよいのです。

 ブロードバンド時代とはいえ、最新の高速性を追い求めるばかりが能ではありません。サーバ運用サイトでは安定性も大事です。安くて速いが安定性が良くないADSL、安くて遅いが不安定要因が少ないフレッツISDN、やや高くてさほど速くはないが安定性が非常に良いOCNエコノミー。利用目的や運用技術力などの事情しだいで、どれにも利用価値があります。その目利きは、我々インターネット技術者がお客様のニーズに的確に応えるためにも大事なことだと思っています。

目次 ホーム