No.94 2001/06/03
電話に出た時名乗るべきか

 電話に出たらすぐに「はい、○○です」と自分の名を名乗るのが礼儀であると昔から言われていました。そうすれば、かけた方は、意図した相手につながったことをすぐに確認できて、安心できます。会社などの業務用電話では、電話をかけてくる顧客への心遣いとして当然そうするのがビジネスマナーというもので、どこの国の人もそうしています。
 しかし、家庭や個人の電話でもそうしなければならないものでしょうか。私の経験では、欧米の人たちはそうしてはいないようです。家では、電話に出た時、最初は「ヘロー」(英語の場合)としか言いません。留守番電話の応答メッセージでも自分の名を名乗らないようです。私の友人がアメリカで勤務していた時、彼は応答メッセージに「あなたはXXX-XXX-XXXX番にかけています」という意味の言葉を録音していました。おそらく彼は、アメリカではそうすべきだと学んでそうしたのでしょう。

 電話に出た時すぐに名乗らないのは、個人情報の保護に気を付ける欧米の流儀なのだろうと思います。「この電話番号の使用者である私の名前は○○である」というのは自分のプライバシー情報であって、かけてきた相手が誰であるかを確認できるまではそれを明かさないという考え方なのでしょう。「もし間違い電話だったら、相手は私を知らない人である。そういう人に私の名前という個人情報を教える必要はない。かけた方が先に、自分は誰にかけるつもりであったかを表明するのが当然である」――欧米の人たちが皆、意識的にそういう信念を持っているのかどうかはわからないにしても、それは至極まっとうな考え方だと思います。

 私は、昔、電話に出てすぐに名乗らない人に対して「この人は電話の礼儀として言われていることを知らないのか」と思ったこともあったものですが、今ではそんなことは思わないことにしています。私は昔からの癖で、家の電話に出る時は名乗っているし、留守番電話の応答メッセージでも名乗っています。しかし、他人にもそうすることを求めるべきではないと思っています。すぐには名乗らない方が、個人情報保護の観点からはより安全かもしれませんから。
 最近では、電話に出てすぐに名乗らない人が昔よりも多くなっているかもしれません。もし年寄りが「嘆かわしい。電話に出たら名乗るのが礼儀だ」と古い常識を振りかざしても、真に受けることはありません。「それは仕事の電話だけの常識です」と言い返せばよろしい。

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