No.92 2001/05/05
何だ、このメールは!

 こいつをどうやってさらし者にしてやろうかと考えた末、きまぐれノートで永久保存してやることにしました。
 スペイン語のメールです。その本文はこうでした。
en vez de gavacho sois unos chorizos
 私は、スペイン語はできませんが、単語を片っ端から辞書で引いて解読するくらいはできます。意味はこうです。
gavachoというよりもお前らはソーセージだ
 「sois」(ソイス)は「…である」の意味の動詞の二人称複数形です(スペイン語では、主語人称代名詞はしばしば省略されます)。スペイン語では、二人称は親しい相手に使うものであり、敬意を表すべき相手に対しては三人称をとります。見ず知らずの人に初めて送るメールで二人称を使うのは無礼であるはずです。それに、最初に何の挨拶もない。文の先頭は大文字、最後はピリオドという正書法を守っていない。「gabacho」の綴りが間違っている。無教養な奴としか思えません。

 私は最初、「ソーセージ」→「串刺し」→「攻撃」という連想から、私のサイトに対する攻撃予告かと思いました。私は「ネットワーク攻撃記録」で攻撃未遂をさらし者にしているので、それに対する報復である可能性に思い至ったのです。
 しかし、私のサイトでは、よく知られているセキュリティホールはことごとくふさいでいます。いったい私のサイトにどうやって侵入しようというのか。やるとしたら、おそらく、サーバに多量のアクセスを殺到させるDoS(Denial of Service:サービス妨害)攻撃か、多量のメールを殺到させる攻撃くらいしかないでしょう。そうなったら防御は困難ですが、できないことはありません。攻撃元のIPアドレスを検出してルータでブロックする、メール爆弾のヘッダ情報のパターンを読んでメールサーバプログラムでブロックするなどの対策を計画しました。
 ところが、このメールのヘッダを見てみると、Outlook Expressを使ってhotmail経由で送信していることがわかります。しかも、Outlook Expressのデフォルト設定どおりにプレーンテキストとHTMLの併記の書式になっています。それに、ヘッダで送信元IPアドレスがばればれ。とてもハッカー(コンピュータシステムの中身を“切り刻む”ほどの高スキル者のこと。必ずしも悪人を意味しない)のやることとは思えません。

 193.152.150.165という送信元IPアドレスがばればれだったので、ここから193-152-150-165.uc.nombres.ttd.esというドメイン名を検索し、それに基づいてウェブへのアクセスの記録を調べてみました。すると、ホーム(トップ)ページしか見ていなくて、「ネットワーク攻撃未遂者リスト」は見ていないことがわかりました。となると、ネットワーク攻撃未遂をさらし者にしていることに対する報復とは考えられません。
 私のホームページは、先頭のタイトル以外は全部日本語です。日本語フォントをインストールしたシステムでないと、文字化けどころか表示が崩れることがわかっています。そんなページを見て、スペインの無教養な奴が何を言おうとしたのでしょうか。

 ふと思い立って、手元の小さなスペイン語辞書だけに頼らず、英語の辞書で「sausage」を引いてみました。すると、米語でドイツ人の蔑称の意味もあることがわかりました。「gabacho」にはスペイン語で「フランス人」の意味がありますから、もしスペイン語でも「chorizo」(チョリソ:ソーセージ)にドイツ人の蔑称の意味があるとしたら…
フランス人というよりもお前らはドイツ野郎だ
やはりわけがわかりません。
 スペイン語に詳しい人に尋ねたらわかるのかもしれませんが、もしかしたら、スペイン語の「gabacho」にはフランス人の蔑称の意味があるのでしょうか。そういう言葉を私がサイト名に使っていることに対する軽蔑の意を表そうとしたのでしょうか。
 しかし、仮にそうだとしても、そんなことは知ったことじゃありません。「Gabacho-Net」という名前は、スペイン語の「gabacho」から取ったのではありません。1960年代にNHKテレビで放送されていた人形劇「ひょっこりひょうたん島」の登場人物「ドン・ガバチョ」からいただいたものです。「ガバッとまとめてめんどうみよう」というキャラクターの、スペイン風の名前の大統領「ドン・ガバチョ」、フランスのがんばり屋おばさん「ド・コンジョ」、ギリシャのはちゃめちゃな神様「デタラメデス」など、この劇には至る所に外国語のパロディーがちりばめられていました。私はそのおもしろさに敬意を表して、かつて会社で使っていたコンピュータに「gabacho」というホスト名を付け、その後、それを今のネットワーク名に引き継いだのです。「gabacho」はあくまでも日本語です。

 結局のところ、わけがわからずじまいでしたが、馬鹿は相手にしないことにしました。
 この種のわけのわからないメールを受けて戸惑っておられる方、ご遠慮なくご相談ください

 そのメールをここにさらし者にします。私のサイトに対して無礼なことをする奴はこういう目にあいます。

Return-Path: <newcid@hotmail.com>
Received: from hotmail.com (oe76.law12.hotmail.com [64.4.18.211])
 by a.gabacho-unet.ocn.ne.jp (Postfix)
 with ESMTP id BC0E02261A for <webmaster@gabacho-unet.ocn.ne.jp>;
 Fri, 27 Apr 2001 01:25:40 +0900 (JST)
Received: from mail pickup service
 by hotmail.com
 with Microsoft SMTPSVC;
 Thu, 26 Apr 2001 09:25:39 -0700
X-Originating-IP: [193.152.150.165]
From: "F. Pobes" <newcid@hotmail.com>
To: <webmaster@gabacho-unet.ocn.ne.jp>
Subject: gabacho
Date: Thu, 26 Apr 2001 18:24:13 +0200
MIME-Version: 1.0
Content-Type: multipart/alternative;	boundary="----=_NextPart_000_0011_01C0CE7E.18368040"
X-Priority: 3
X-MSMail-Priority: Normal
X-Mailer: Microsoft Outlook Express 5.50.4522.1200
Disposition-Notification-To: "F. Pobes" <newcid@hotmail.com>
X-MimeOLE: Produced By Microsoft MimeOLE V5.50.4522.1200
Message-ID: <OE76Ae2hXSDx1kLwxTQ0000348a@hotmail.com>
X-OriginalArrivalTime: 26 Apr 2001 16:25:39.0359 (UTC) FILETIME=[87ED0AF0:01C0CE6D]
X-UIDL: <`6!!]$"!!FAZd9P9D!!

en vez de gavacho sois unos chorizos



(2001年5月6日追記)
 この記事を掲載した後、このメールの送信者は「よお、スペイン語のサイト名かい。なかなかじゃん」というような軽い気持ちで送ったという可能性も否定できないと思いました。もしそうであったなら、無教養で礼儀知らずではあっても、糾弾するほどのことではないでしょう。
 しかし、このメールが届いた4月27日(午前1時ころ)の前日には、いつになく一日3件ものFTP攻撃があり、当日には同じ所から4回ものFTP攻撃があったのです。私は、攻撃予告の可能性を考えざるを得ませんでした。
 仮にこの送信者に悪意がなかったとしても、受信者への配慮のない(インターネットでの国際共通語である英語で書くという配慮さえない)無作法なメールが私に警戒心と怒りを起こさせたのです。インターネットを使ったコミュニケーションではいかに相手への配慮が大切かを物語る事例として受け取っていただければと思います。




付記:ネットワーク攻撃記録の公表はとりやめました。

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