No.87 2001/03/25
確率のパラドックス

 パラドックスとは、二つの説が互いに矛盾していながら共に正しい(あるいは正しいように見える)ことをいいます。日本語では「逆説」と訳されています。

 ここに二つの説があります。
説A:1枚の当たり券を含む100枚のくじを100人に1枚ずつ配ったとする(もちろん、誰か一人に必ず当たる)。このとき、一人の人にとっては、当たる確率は1%である。

説B:1%の確率で当たるくじをもらった人が100人いるとする。このとき、一人の人にとっては、はずれる確率は99%である。確率の定理によれば、はずれることが100人に共に起こる確率は99%の100乗となる。すなわち、約37%の確率で100人全員がはずれる
 二つの説とも、何の間違いもないように見えます。しかし、両者は明らかに矛盾しています。なぜだかおわかりでしょうか。
 実は、説Bが論拠としている確率の定理は、独立事象についてのものです。すなわち、「ある人に当たるかどうかは、別のある人に当たるかどうかとは無関係である」とみなすことができる場合に言えることなのです。たとえば、100枚のくじから1枚を引き、ひいた後それを戻してから次の人が引くということを100人の人が順に行う場合には、ある人が当たりくじを引く確率は、ほかの人に当たったかどうかとは無関係に1%です。このような場合には、100人全員がはずれる確率は約37%であると言えるのです。
 ところが、説Aの場合は、100人のうちのある人に当たるかどうかは、別のある人に当たるかどうかとは独立ではありません。ある人に当たったことがわかれば、別の人には当たらないことが確定するからです。このような場合には、独立事象を対象とする定理を適用して「誰にも当たらない確率」を論じてはいけないのです。

 独立事象とみなしてはいけないのに、独立事象を対象とする定理を適用して確率を論じるというのは、ありがちな落とし穴です。

例1:「1基のジェットエンジンが飛行中に故障する確率は1万分の1以下であろうから、3基のジェットエンジンを持つ旅客機では、全部同時に故障する確率は1兆分の1以下。そのようなことはまず起こりえない。」
 ずいぶん昔のことですが、3基のジェットエンジンが同時に故障する事故がありました(墜落はしなかったと記憶していますが)。原因は、3基のエンジンに潤滑油を送る1台だけのポンプの故障でした。エンジン内部に起因する故障ではありませんから、個々のエンジンの故障は独立事象とはなりません。

例2:「2台のサーバでウェブサービスを提供していて、1台が故障したら、残ったもう1台にアクセスを振り向けるようにしている。1台が一日のうちに故障する確率は1000分の1以下であろうから、2台が同時に故障する確率は100万分の1以下。サービスが止まることはまずない。」
 ふだん、2台のサーバそれぞれに、限界の半分を超えるアクセス負荷がかかっていたら?1台が故障したら、残ったもう1台にかかるアクセス負荷が限界を超えて、システムダウンを引き起こすかもしれません。すなわち、1台の故障がもう1台の故障の確率に影響を与えるということですから、個々のサーバの故障は独立事象とみなせなくなります。

 サービスを運用するには、システムの故障確率を評価し、危機管理をどのようにするか、それによってサービス停止の危険率をどの程度まで下げるかを考える必要があります。その際、ここで述べたように、確率評価の落とし穴に陥らないように気を付けなければなりません。
 Gabacho-Netでは、予備サーバを置いて、サーバの故障に備えています。クライアントパソコンも2台持って、コンテンツをバックアップしています。ですから、たいていの場合、故障が起こっても24時間以内に復旧できる見込みです。ルータは故障しにくいので、予備機は買ってありませんが、故障したらパソコンショップへ新しいのを買いに行って、おおむね48時間以内には復旧できる見込みです。OCN回線にも予備がありませんが、OCNサービスが24時間以上止まることはほとんどないと期待できます。
 しかし、予備がないものがまだあります。一つは、サイトの設置場所です。私の家が火災になったら、コンピュータは予備機もろとも焼失するでしょう。もはや、個々のコンピュータの故障は独立事象ではなくなります。それにも備えようとすれば、ホスティングサービス(サーバ貸し)やハウジングサービス(場所貸し)を買う方法があります。でも、お金がかかりますから、そこまではやれません。
 もう一つ、予備がないのは、私自身です。組織サイトなら人員の予備は確保できますが、個人サイトですからそうはいきません。私の旅行中や短期の入院中に起こった故障ならばいずれ復旧できるでしょうが、死んだらおしまいです。そうなったら、Gabacho-Netのファンの皆様、および私が提供しているメーリングリストの会員の皆様、あきらめてください。m(_"_)m

 確率のパラドックスの話題を掲示板で提供してくださった後藤さんにお礼申し上げます。

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