No.73 2000/11/26
インターネット時代の著作権ビジネス

 私は、1997年から1998年にかけて、インターネット技術の基礎知識の解説記事を月刊の情報技術誌に投稿していたことがあります。ある会社から、そのコピーを社員の勉強に使いたいという申し出があったので、出版社に相談しました。
 著作権と出版権の問題に抵触しないためには、記事が掲載された月刊誌を買ってもらうのが最も無難だと考えたのですが、バックナンバーにはもう品切れのものもあるとのこと。編集長は、私のウェブサイトで記事を公開することを勧めてくれて、誌面の印刷イメージのファイルを提供してくれました。

 しかし、私は考えました。この解説記事は、商業的価値を出版社に認められ、原稿料をもらって書いたものです。原稿料のもとになったお金は、その月刊誌の読者が払ってくれたものです。言わば、月刊誌の読者の負担のおかげで世に出させてもらった情報です。それを完全に無償で公開することが妥当なのだろうか。それに、印刷イメージファイルを整備するのに改めて手間をかけてくれた出版社に何の対価もなくてよいのだろうか。

 そもそも、著作権とは「著作物の複製を独占する権利」です(英語の「copyright」の方が、その本来の意味がわかりやすいでしょう)。著作物が勝手に複製されることを許さない権利を著作者に認めることにより、創作に対する正当な報酬を著作者が得ることができるようにするのが著作権法の目的です。
 インターネットでは、いろんな情報が無償で手に入るという便利さゆえに、著作権保護に対する人々の意識が麻痺し、電子メールなどによるコピーの配布が平気で行われてしまうという問題が起こっています。著作権が保護されない限り、著作者や出版社は、商業的価値のある著作物をインターネットで公開するのを躊躇するでしょう。定期刊行物などに掲載された有用な著作物が、その契約読者以外に知られることなく埋もれてしまうのはもったいないことです。インターネットの良さを活用することと著作者の権利を保護することを両立させる方法はないものでしょうか。

 そこで私が考えたのは、私の著作物の無償使用条件と有償使用条件を定めることです。考えた結果は、以下のような単純な規則です。  著作権料の支払いを要しないとされている方法とは、インターネットで公開される文書に適用されるものについていえば、以下のものです。  つまり、私の記事を個人的に閲覧したりプリントアウトしたりするのは無償。一方、企業内教育のためにコピーを配布したり、多くの人にメールでコピーを流したりするのは、無断でやれば著作権法に抵触するから、その場合には使用料を払ってくださいということです。使用者一人分の使用料は、小冊子として販売する場合の数分の一の値段にしました。許諾を要する条件で使いたい人は、いちいち私に利用目的を説明して許諾を求めて返事を待つ必要はなく、安い使用料を払いさえすれば著作権法違反に問われないのですから、使用者にとってもメリットでしょう。

 そして、私は、使用料の受け取りを出版社にやってもらうことを編集長に提案しました。つまり、使用料を出版社が受け取り、印刷イメージファイルの対価および使用料受領業務の手数料として出版社が取る分と、増刷分印税の扱いで私がもらう分とに分けるという契約です。
 このやり方では、使用料が事業者(出版社)に支払われるので、消費税がかかります。また、出版社から私への印税の支払いで所得税がかかります。もしかしたら、使用料を私が受け取ることによって合法的に税を逃れる方法があるかもしれません。しかし、私はあえて、堂々と税金を払うやり方をとりました。定期刊行物に掲載されて一般には入手しにくい有用な情報をインターネットで公開することで、世の中の人々、著作者、出版社が共に利益を得ることができる。つまり、このやり方はインターネットを使ったビジネスになると考えたからです。

 私が考えたこのやり方は、少なくとも、インターネット上の著作物の著作権を侵害しないように警告することには役立つはずです。そして、複製を組織的に利用したい人が良識を持っている限り、このビジネスモデルはきっと成立すると思っています。
 この方法で公開を始めた記事はこちらです。

 ところで、当然のことですが、著作権保護の対象になるのは商業的価値のある情報に限らないということを忘れないでください。インターネット上のあらゆるコンテンツについて、許諾を得ずに無償で複製を使用できる条件は前述のものに限られると思っておいた方がよいでしょう。
 一方、リンクを張るのも著作者の許諾を要するという誤解が世の中には多いようです。リンクは「この本はこの図書館にありますよ」という紹介と同等のものであって、複製ではありませんから、無断でやっても法に触れることはありません。リンクと複製は見かけ上同等に思えるかもしれませんが、リンクならば著作者がコンテンツを修正したり削除したりする権利が確保される一方、勝手に出回った複製は著作者がコントロールできません。両者はまったく違うものです。
 リンクによって情報発信サイトにアクセス負荷が増えるのを救ってあげるという善意からであっても、別サイトやイントラネットにコピーを置くことは、著作者が事前に許諾を宣言していない限り、無断でやれば法に触れます。ご注意ください。

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