No.59 2000/07/20
責任を薄くする方法

 失敗しそうなプロジェクトの責任者をやらされている人のために、失敗した場合にも出世に響きにくいように備えるための処世術をご紹介します。
 プロジェクトが失敗すれば、その責任が自分にかかってくるのは避けられません。その際、露骨な責任逃れをしてはいけません。よくいるのは、顧客や上司の前で部下を叱責し、部下に責任をなすりつける人です。これは最悪です。たいていの場合、顧客や上司はそれほど馬鹿ではありませんから、「こんなやつに二度と重要な仕事を任せることはできない」と思うでしょう。そうなれば、あなたの出世の道は閉ざされたも同然です。出世したければ、くれぐれもこんなことはしないように。
 上手なやり方のポイントは、自分にかかる責任をほどほどに薄くすることです。プロジェクトが失敗しそうになったら、仕事にちょっとでも関係のありそうな人たちを片っ端から巻き込んでおきましょう。たとえば、ソフトウェア開発プロジェクトで、危機に陥った原因がハードウェアの調査不足にあるのならハードウェア関係者、ネットワークの知識不足にあるのならネットワーク関係者を巻き込みます。なるべく自分と同じくらいのランクの人に声をかけるようにしましょう。ランクが高すぎる人も低すぎる人も不適当ですので、注意してください。
 その際、他人に負ってもらう責任範囲を明確にしないことが重要です。あなたが巻き込んだ人が自分の分担した責任を果たしたということが後で明白にわかるようでは、この処世術はうまくいきません。「あなたはこの範囲を分担してくれ」という頼み方でなく、「困っているんだ。ともかく打ち合わせに出てくれ」といった言い方で頼むようにしましょう。
 ついにプロジェクトが失敗した時には、顧客や上司の前で、自分が巻き込んだ人たちに「あなたもあの時、話を聞いていたよね?」などのように言って、上手に批判の矛先をかわしましょう。しかし、くれぐれも、露骨に他人に責任をなすりつける言い方はしないように気を付けてください。
 こうすれば、顧客や上司は、あなたの免責を認めることはないにしても、ほかの人たちにも責任はあるのだという気になるでしょう。これによって、上司があなたに問う責任は薄められ、あなたに対するマイナス評価は小さくなり、したがって出世に響きにくくなるでしょう。しつこく念を押しておきますが、マイナス評価から完全に逃れようとあせるのはいけません。できる限り上司の心証を悪くしないことでよしとすべきです。
 賢い人たちは、このような危機管理を無意識のうちに行っているものです。そういう優れた知恵を学んでいただくために、ノウハウを文書化してみました。

 ただし、ここで述べた処世術は、顧客や上司が、責任の所在をあいまいにすることを好む日本的美徳を備えた人である場合にのみ有効です。欧米人、あるいは欧米流の合理主義的思考の持ち主に対しては、まず通用しません
 そもそも、日本と欧米とでは、「責任」という言葉のとらえ方が違うのです。
 日本語の「責任」の「責」という漢字には、「果たすべき務め」のほかに「責め、とがめ」の意味もあり、「責任をとる」とは腹かっさばいてお詫びすることだとする観念があります。そして、ハラキリはかわいそうだから、周りの人たちにもちょっとずつ責任があることにして、ちょっとずつだから「まあ、いいじゃない?」で丸く収めるのが日本的美徳なのです。
 しかし、英語の「responsible」(責任を負っている)の語源は「約束(spons:ラテン語)に応える(re-)ことができる(able)」なのです(英語のみならず、広く西欧言語で共通です)。欧米人や欧米的思考の持ち主は、「約束に応えるべきはあなただ」という姿勢であなたに迫るでしょう。あなたが腹かっさばいたところで、「立派に責任をとった」とは認めてくれません。「約束に応える義務を果たさなかった」と判断されるだけのことです。あきらめてください
 欧米流合理主義者の前で責任をとるのは、日本的美徳にどっぷりつかった日本人にとってはかなりむずかしいことでしょう。それは、失敗の原因を客観的・論理的に分析し、失敗を繰り返さないための方策を提言することです。それが優れたresponseであれば、失敗から貴重な教訓を学び取ったとして高く評価されるでしょう。
 まあ、こっちの方がまともですね。

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