番頭はん、番頭はん! |
なんや、ちょろ松かいな。どないしたんねん。 |
てれほんとかいう、えろう便利なもんがあるらしいですわ。 |
照れ本?なんやねん、それ。 |
なんでも、遠くの人と話ができるからくりやそうでんねん。 |
伝声管みたいなもんかいな。相手のつばが飛んできてペストでもうつるんとちゃうかいな。 |
そんなことあらしまへん。えれきの力を使うもんですさかいに。 |
どないなからくりやねん。 |
うちで使うとしますとな、逓信省に頼んで、てれほんを付けてもらうんですわ。ほんでもって、てれほんに向こうてしゃべりましてな、おぺれーたーっちゅう人に、どこそこにつないでおくんなはれって頼むんですわ。ほしたら、自分が話したい人と話ができるようになるんやそうですわ。 |
ほしたら、やっぱ金がかかるんやろな。 |
へえ。いくらかかるかといいますとな… |
なんやて、ほんなぎょうさんかかるんかいな。ほんな金、うちの店で出せるもんかいな。 |
せやけど、お得意さんに御用聞きもできまっしゃろし… |
あほ。御用聞きっちゅうのはな、お前がお得意さんのうちまで足を運んで、じかにお話してくるもんや。向こうはんの顔も見んといて、何の御用聞きかいな。何考えとんねん。 |
せやけど、遠くのお人とすぐにお話できますさかいに、お店の商売にもええ思いまして…。てれほん持っていなさる人は、えろう便利につこうてはるそうでっせ。 |
よう聞きや。あきんどちゅうもんはな、銭の損得をよー考えなあかんのやで。そりゃ、てれほんちゅうのは、ちっとは役に立つんかもしらんで。せやけど、ほんな高い金はろうて、走っていけばすむ用事にほんなもんつこうて、うちらどれだけ儲かるんかいな。考えてもみい。ほんなあほなこと考えとらんと、自分の仕事ちゃんとやらんかい。このどあほが。 |