No.46 2000/04/20
昔はこんな人もいたかもしれない

 私は、イントラネット(インターネット技術を利用した企業内コンピュータネットワーク)という言葉がなかった1989年からイントラネットの仕事に従事していました。
 イントラネットの活用による社内業務の効率化を推進すべく、仕事仲間が社内でその説明を行いました。その時の反応は、「それでいくらの投資効果があるのか」というものだったそうです。その仕事仲間は電子メールでこう訴えていました。「そりゃあ、投資効果を考えるのも重要だけど、コンピュータネットワークによる無形の利益というものもわかってくれないかなあ」。
 家庭で電話を利用しながら、「電話に支出している家計は何円で、それによって得ている利益は何円だから、電話に加入しているメリットがある/ない」などと考えている人はいませんよね。同じように、今、インターネットにつながるイントラネットは企業の生命線にまでなっていて、「それによって得る利益は何円だから、導入の効果がある/ない」などと考えてはいられない時代です。かつて「それでいくら儲かるのかね」と言っていた人が、今は「インターネット技術を取り入れない企業は生き残っていけないのだよ」と言っていたりするんでしょうね。
 前述の仕事仲間からの電子メールを受けて私が作った小話。1992年の作品です。

 番頭はん、番頭はん!
 なんや、ちょろ松かいな。どないしたんねん。
 てれほんとかいう、えろう便利なもんがあるらしいですわ。
 照れ本?なんやねん、それ。
 なんでも、遠くの人と話ができるからくりやそうでんねん。
 伝声管みたいなもんかいな。相手のつばが飛んできてペストでもうつるんとちゃうかいな。
 そんなことあらしまへん。えれきの力を使うもんですさかいに。
 どないなからくりやねん。
 うちで使うとしますとな、逓信省に頼んで、てれほんを付けてもらうんですわ。ほんでもって、てれほんに向こうてしゃべりましてな、おぺれーたーっちゅう人に、どこそこにつないでおくんなはれって頼むんですわ。ほしたら、自分が話したい人と話ができるようになるんやそうですわ。
 ほしたら、やっぱ金がかかるんやろな。
 へえ。いくらかかるかといいますとな…
 なんやて、ほんなぎょうさんかかるんかいな。ほんな金、うちの店で出せるもんかいな。
 せやけど、お得意さんに御用聞きもできまっしゃろし…
 あほ。御用聞きっちゅうのはな、お前がお得意さんのうちまで足を運んで、じかにお話してくるもんや。向こうはんの顔も見んといて、何の御用聞きかいな。何考えとんねん。
 せやけど、遠くのお人とすぐにお話できますさかいに、お店の商売にもええ思いまして…。てれほん持っていなさる人は、えろう便利につこうてはるそうでっせ。
 よう聞きや。あきんどちゅうもんはな、銭の損得をよー考えなあかんのやで。そりゃ、てれほんちゅうのは、ちっとは役に立つんかもしらんで。せやけど、ほんな高い金はろうて、走っていけばすむ用事にほんなもんつこうて、うちらどれだけ儲かるんかいな。考えてもみい。ほんなあほなこと考えとらんと、自分の仕事ちゃんとやらんかい。このどあほが。


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