No.28 2000/01/09
「ear」と「year」

 NHKラジオの英語講座で、こんな会話文を聞きました(正確にこのとおりだったかどうかは自信ありませんが)。
How many years do we need to master English?
(英語をマスターするのに何年かかりますか?)
You need only two ears.
(二つの耳があればよろしい。)
英語が上手でない人が発音した「year」が英米人には「ear」に聞こえたというジョークです。
 私がこれを聞いて「そうか、earとyearでは発音が違うのか」とショックを受けたのは、30代のころでした。それまで、「year」の発音は「ear」とは違うから気を付けるべきだと教えられたことはありませんでした。また、英語ネイティブの先生から注意を受けたこともありませんでした。おそらく、ネイティブの先生は、「ear」と聞こえても前後関係から「year」と解釈してくれたのでしょう。
 「ear」と「year」は、日本語ではどちらも「イヤー」と音訳されます(「イア」と書いた方が原音に近いかもしれません)。しかし、「ear」の「イ」の音はローマ字書きすれば「i」ですが、「year」の「イ」は「yi」なのです。母音iと子音yはよく似た音なので、「yi」は日本人にはかなりむずかしい発音です。しかし、英語ネイティブの人にとっては、「ear」と「year」の発音が違うのは当たり前のことで、「year」の発音がむずかしいという感覚はないようです。
 このことを明確に意識するようになってからは、私はほどなく「year」の正確な発音ができるようになりました。高校・大学時代に学んでいたフランス語に「accueuillir」(アクイール:もてなす)という単語があり、その中の「illi」の部分が「yi」の音だからです。NHKラジオのフランス語講座の先生の指導を守って、ネイティブの発音を正確にまねるように心がけていたので、「yi」の発音の訓練はできていたのでした。

 では、「yi」を正確に発音するこつを述べましょう。
 まず、英語のy音は日本語の「や・ゆ・よ」の子音よりも舌を緊張させるということに気を付けてください。母音の「イ」よりも舌を口蓋に近付けます。あと少しで「ギ」になってしまうくらいの発音を試みてください。
 あるいは、緊張して悲鳴を上げる時のように「ヒー」と言ってみてください。日本語の「ひ」よりもきつく、あと少しで「キ」になってしまうくらい舌を緊張させます。ドイツ語を知っている人なら、「ich」(イヒ:私)のch音を子音として「ヒー」と発音してください。それを練習したら、舌の形はそのままに最初から声帯を震わせて子音を有声化します。そうして発音される「イー」という音は、「yi」の音になっています。
 「you」「yes」などの発音がむずかしいと思っている人はいないでしょうが、実は、日本語の発音で「ゆー」「いえす」と言うよりもy音はきつい音です。上で述べた方法で「yi」の発音を練習したら、そのy音を「you」や「yes」などにも適用するように意識してください。そうすれば、より正確な英語の発音になります。

 ついでに言いますと、「ウ」の前のw音(ローマ字書きすれば「wu」)も日本人にはむずかしい発音です。「would」「wood」「wolf」「wool」にその音があります。日本語の発音で「うっど」「うるふ」「うーる」と言う時の「う」とは違います。英語の母音「ウ」は日本語の「う」よりも唇をとがらしますが、w音はさらに唇を小さくとがらします。まず「bull」を発音して、次にb音に代えて唇をぎりぎりで閉じないようにすれば、「wool」の正確な発音になります。

 ただし、ここで述べたことは、英語をできる限り正確に発音したい人のためのものです。英会話に必須の注意事項とまでは言えないと思います。英語ネイティブでない人とのコミュニケーションに慣れている英米人なら、l音とr音の区別が下手な日本人の発音でもちゃんと聞き分けてくれるものですから。

目次 ホーム