No.16 1999/11/28
東海林さん

 みなさん、こんにちは。子ども電話相談室の出尾麻美おねえさんです。
 では、さっそく今日のご質問をお受けしましょうね。おともだちに電話がつながっています。もしもし?
 はーい。
 お名前は?
 野々市谷 太郎左衛門之丞時宗でーす。
 はい、太郎左衛門之丞時宗くん、ご質問は何ですか?
 あのー、名簿を見ている時に、「東海林」と書いた名字があって、ぼくが「とうかいりん」さんと読んだら、友達に「常識のないやつだなあ。『しょうじ』さんって読むんだぜ」って笑われました。どうして「東海林」と書いて「しょうじ」と読むんですか?
 そうですね。ふしぎですね。では、無着 茶先生にうかがってみましょう。先生、よろしくお願いします。
 それはね、太郎左衛門之丞時宗くん、とってもむずかしい問題なの。
 もうお亡くなりになったけど、東海林太郎さんっちゅう有名な歌手がいたの。だからね、「東海林」って書いて「しょうじ」って読む名字があるっちゅうことは、たくさんの人が知ってるの。でもね、どうしてそう読むのかっちゅうのは、専門家にも長い間なぞだったの。
 君は庄園って知ってるかなあ?
 いいえ。
 庄園っちゅうのはね、昔、奈良時代から室町時代にかけて、貴族や神社やお寺が持っていた土地のことなの。そしてね、庄園を管理するお仕事の人のことを、庄園をつかさどるっちゅう意味で「庄司」っていったの。この字を書く庄司さんっちゅう名字の人もいるのよ。この名字はね、もともと、庄司っちゅうお仕事の名前から来てるの。ここまでわかったかなあ?
 はい。
 それでね、昔、「とうかいりん」さん、または「とうかいばやし」さんっちゅう人が、庄園を管理するお仕事をしていたらしいの。その人は、周りの人たちから、お仕事の名前で「庄司さん」って呼ばれていたらしいの。それでいつのまにか、名字とお仕事の名前とがごっちゃになっちゃって、「東海林」って書いて「しょうじ」って名乗る名字になったらしいの。「とうかいりんさん」や「とうかいばやしさん」よりも「しょうじさん」の方が言いやすかったからかもしれないね。わかった?
 はあい。
 先生、今でも、「とうかいりん」さん、または「とうかいばやし」さんと読む名字の人もいらっしゃるんですか?
 そうなの。ちゃんといらっしゃるの。だからね、太郎左衛門之丞時宗くん、君は「常識のないやつ」じゃないの。だから安心していいのよ。
 はあい。安心しました。
 じゃあ、先生、「とうかいりん」さんって読む人と、「とうかいばやし」さんって読む人と、「しょうじ」さんって読む人では、どの名字の人が多いんですか?
 それはね、先生もよく知らないの。もしかしたら、ほんとは「とうかいりん」さんか「とうかいばやし」さんなのに、東海林太郎さんがあんまり有名だったから、みんなに「しょうじ」さんって呼ばれて、訂正するのがめんどくさくなって、「しょうじ」って名乗るようになっちゃった人もいるかもしれないね。
 先生、名字の名乗り方を変えるのはかまわないんですか?
 戸籍にはね、名字の読み方まで登録されてるわけじゃないの。だからね、「とうかいりん」って名乗っていた人が「しょうじさん」って呼ばれて「はい」って返事しても、べつに法律に違反するわけでもなんでもないのよ。
 あ、そうそう。作家の水上勉さんっちゅう人がいらっしゃるでしょ。あの人は、ほんとは「みずかみ・つとむ」さんなんだけど、みんなに「みなかみ・つとむ」って呼ばれて、いちいち訂正するのがめんどくさくなって、「みなかみでいいや」って開き直っちゃったらしいの。
 それからね、アメリカでペロー(Perot)さんっちゅう人が大統領に立候補したことがあってね。この名字は英語流に読めば「ペロット」さんなんだけど、ご先祖がフランス人だったから、フランス語流に「ペロー」って名乗ってるの。
 まあ、名字の読み方なんてそんなもんなのよ。あ、最後のはちょっとむずかしかったかなあ?
 なるほど。そういうことだったんですね。太郎左衛門之丞時宗くん、わかりましたか?
 はあい、わかりました。どうもありがとうございました。
 はい、どういたしまして。さよならー。


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