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添削事例

お客様作品集に掲載された作品の添削の過程を記録しました(公表について作者さんの承諾済み)。

江雪(柳宗元) 月恵さん
月恵 三・四・六律で作ってみました。
野山ひっそり 鳥も飛ばず
雪にすっぽり 野道のはず
浮くよ川舟 翁(おきな)ぽつり
蓑で綿雪 しのいで釣り
 古典・ラップ混交律にも挑戦したいと思いますが、字脚はどうすればよいですか?また、どのようなパターンなら許容されますか?
浅見 七六調の条件に合っていて、よくできていると思います。ただ、「鳥も飛ばず」と「翁ぽつり」は、三・三音に区切れるため、リズムが乱れやすいパターンです。
 二行目の「はず」を生かして一行目を変えてみました。二行目は字脚三・四で始まっているので、一行目は七八調でも可です(七八調の次の行は、脚韻の直後のポーズを確保するために字脚三・四で始まらなければなりません)。
 「ぽつり」と「釣り」は拡充二重韻になっているので、三行目は奇数字脚終わりの古典律にしてもかまいません。「翁がぽつり」の方が自然なリズムになります。
山に飛ぶ鳥 見るのもかなわず
雪にすっぽり 野道のはず
浮くよ川舟 翁(おきな)がぽつり
蓑で綿雪 しのいで釣り
 なお、古典・ラップ混交律は、七六調のように音数を完全に固定するという縛りを廃しただけのことで、全部七六調にしたとしても、古典・ラップ混交律の条件の範囲内なのです。ただ、音数を揺らがせた方が、変化の面白さは出てくると思います。
 リズムがわかりやすいように、四音(二律拍)ずつ区切って表記してみます。
○やまに とぶとり みるのも かなわず
○ゆきに すっぽり のみちの はず――
○うくよ かわぶね おきなが ぽつり○
○みので わたゆき しのいで つり――
月恵 アドバイスに基づいて作り直してみました。
峰はひっそり影見ぬ山鳥
雪がすっぽり消す足取り
浮くよ川舟爺やがぽつり
蓑で綿雪しのいで釣り
浅見 言葉の自然さの点で、より良くなっていると思います。
 一行目の「山鳥」は、「足取り」との拡充二重韻にするためだったのかもしれませんが、「鳥」でもよいと思います。ラップ律条件(二重韻は偶数字脚で踏むこと)は満たされます。それに、「とり/どり」と清濁の違いしかない二重韻は響きの度合が高いようです。
 そして、「山」と「峰」という共通性のある言葉の出現を避けてみました。
 それと、意味的に大きく区切れる所に読点を入れました(これは私の流儀ですが、分かち書きを好む人は、それでもよいと思います)。
山はひっそり、影見ぬ鳥
雪がすっぽり消す足取り
浮くよ川舟、爺やがぽつり
蓑で綿雪しのいで釣り
月恵 「峰はひっそり」と二行目の「雪がすっぽり」が対句のようになっていて、しかも、密かに二重韻なので、この対句は変えたくなかったんです。それで下を山鳥(やまどり)にして足取り(あしどり)と合わせたのですが、「とり」と「どり」でもOKならばこの方が良いです。
 私も同じ内容の単語と何回も使うのには難色があって、一行目に「峰」「山鳥」と並べるのはくどいかなと思っていました。二行目に「雪」があり、四行目にまた「綿雪」があるのも気になってはいます。「寒さしのいで」にしようかとも思いましたが、「北の宿から」みたいでしょ(笑)。蓑に雪が積もっている感じが出たほうが良いかと思い、「綿雪」にしました。
浅見 「ひっそり/すっぽり」には私も気付いていました。とても良いと思います。
 確かに「雪」が二度出てきていますが、私は気になりませんでした。そのままでよいと思います。
 今気付きましたが、「浮くよ川舟」が私にはちょっと不自然に感じます。「浮かぶ川舟」または「舟を浮かべて」はどうでしょうか。
月恵 最初は「浮かぶ川舟」にしていたのですが、「浮くよ」に変えたのです。作者は舟の老人ではなく、それをぼんやり岸で見ている人なので、「おや?こんな寒空に釣りをしている爺さんが!」との意外性があると思うんです。それを表現したかったのですが。
 「ぽつり」もそのニュアンスはあるのですが、どちらかというと「ぽつり」は寂しい、たった独りという感じかなと。「ぽつり」で意外性まで表現できるかな…。
 「舟を浮かべて」だと何となく作者が爺さんのようにも取れて、第三者が冬の寂しい情景を見つめている雰囲気が薄れはしないかと。「川」の意も薄れてしまう。海と思う人もいるかも。しかも、どんどん漕いでいるわけではないんですよね。じっと釣っている感じ、静、暗、ですから。
 でも、確かに「浮くよ」の響きは耳に強すぎます。「浮かぶ川舟」だと、「ぶ」が二回続くのが読みにくいかなとも思います。困ったな。どうしましょう。
浮くは川舟、爺やがぽつり
これではどうですか?「浮くよ」と変わりませんか?
浅見 なるほど。そこまで考え抜かれたのなら、その結果を尊重して、「浮くよ」のままにしましょう。私の主観的意見で左右する必要はないでしょう。
完成版
山はひっそり、影見ぬ鳥
雪がすっぽり消す足取り
浮くよ川舟、爺やがぽつり
蓑で綿雪しのいで釣り


春暁(孟浩然) 月恵さん
月恵 三・四・六律で作ってみました。
もっと寝てたい季節は春
辺りさえずる鳥居てはる
ひどい雨風(あめかぜ)もう夜通し
散ってしまった花口惜し
 二行目は初め「さえずり回る鳥居てはる」と、四・三・六になっていましたが、直して三・四・六に揃えました。
 子どもの前で不意打ちで暗唱してみました。「はる」の韻は二人とも気が付いたんですが、「おし」の韻は、「し」しか気が付かなかったんです…。発音の問題もあるかも知れません。「通し」は「どおし」というよりは「どーし」という感じで「お」が「ど」と一体化したような。
 でも、もしかしたら、「口惜し(くちおし)」という聞きなれない単語で意味がピンとこなかったせいかも知れません。憶測ですが。そうなると、「意味」は重要となってきます。
浅見 行の前半の七音句が「さえずり回る」と字脚四・三になるのは、私の考えでは可としています。私は個人的には、都々逸と同じく三・四か四・四にするのが好みではありますが。
 「夜通し/口惜し」は、可とする人もいますが、私は不可とはしないまでも自分では避けます。おっしゃるとおり、「よどおし」の「お」は「ど」に融合して長音化していて、一音ずつ明瞭に「よ・ど・お・し」と発音するのとは同じ音ではないからです。「口惜し」との韻がわかるように「夜通し」を発音すると「淀押し」のように聞こえないでしょうか?お子さんがここを韻とわからなかったのは、そこに原因があるのだろうと思います。
 「居てはる」と大阪弁を使った拡充二重韻は面白いですね。せっかく大阪弁で面白さを出しているので、大阪弁に徹しませんか?大阪弁として間違っている所があったら直してください。
もっと寝てたい、季節は春
辺りさえずる鳥居てはる
嵐轟々しとったことやし
散ってしもうた花くやし
月恵 そうですね、それが良いです。「居てはる」の一語だけでは、大阪弁と分からない人もおられるかもとの懸念がありました。
 三行目に「昨夜」の意味が反映されていないのが気になりますので、三行目を変えてみました。どうでしょうか。
もっと寝てたい、季節は春
辺りさえずる鳥居てはる
昨夜(ゆうべ)ぎょうさん降ったことやし
散ってしもうた花くやし
浅見 三行目は
○ゆうべ ぎょうさん ○ふった ことやし
と、行の途中にポーズが入るリズムになります。私の提案する型の原則からははずれますが、これは許容される破調としています。ただ、
昨夜(ゆうべ)ぎょうさん降ってたことやし
とすると破調になりませんが、大阪弁として自然ですか?
月恵 ええ、これはOKだと思います。
完成版
もっと寝てたい、季節は春
辺りさえずる鳥居てはる
昨夜(ゆうべ)ぎょうさん降ってたことやし
散ってしもうた花くやし


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